少子化の要因分析
1.少子化の現状
(1)出生数の推移
① 図表1に「厚生労働省令和6年(2024)人口動態統計月報年計(概数)の概況」4頁の「出生数及び合計特殊出生率年次推移」を示す。

②出生数は、1973年以降半世紀もの間、年平均2.2%の率で減少し、2024年には686千人に減少した。
③ 1973年に2.14であった合計特殊出生率(Total Fertility Rate以下TFR)は2025年には1.15と大きく減少している。
• 合計特殊出生率は、少子化分析における最も重要な指標である。
• 現状の人口規模を維持するのに必要な合計特殊出生率を「人口置換水準」と呼ぶ。現在の値は2.07である。
(2)二つの「少子化問題」
① 少子化問題「1」は、出生数が長期間減少し続け、下げ止まることのない「出生数の長期減少傾向」である。
このまま減少傾向が続けば日本は消滅する。
②少子化問題「2」は、出生数が何人で下げ止まるか、下げ止まった出生数によって将来の静止人口数が定まる。
静止人口の規模によって、人口縮小社会にソフトランディングできるか否か、多大な影響を受ける。
(3)出生数の長期減少傾向はなぜ続いてきたか
①危機感の欠如:人口モメンタムの影響もあり人口減少の危機感が醸成されなかった。
②人口減少が始まって、ようやく危機感共有
③しかし政府施策は有効性が低く「いまだ出生数は下げ止まっていない」
2.要因分析
(1)要因分析に用いたデータの出所を以下に示す。
このデータに基づく「出生力」低下の要因を(2)以降に記述する。
①要因分析は、国立社会保障・人口問題研究所(以下社人研と略称)の「現代日本の結婚と出産 第16回出生動向基本調査」に基いて行う。(p54-図表6-1-1夫婦の完結出生子ども数、p56-図表6-1-2夫婦の出生子ども数の分布)
②社人研の「現代日本の結婚と出産」は、1940年の第1回から2021年の第16回まで、約80年間概ね5年おきに発行されている。
③1977年の第7回から2021年の第16回までは「夫婦の出生子ども数の分布」の調査が行われている。
この44年間・10回のデータを用いて分析する。
④図表2に、TFR、完結出生児数、出生こども数分布のデータを示す。(TFRは一般公開データに基づく)。

⑤TFRと完結出生児数の関係を下に示す

・上式を展開し、「既婚者数+未婚者数」を、比率1(100%)で表すと、
・既婚者数比率 = TFR÷完結出生児数
・未婚者数比率 = 1-既婚者数比率) が導ける。
(2)図表3に1972年から50年間のTFR、完結出生児数、既婚者比率を描いたグラフを示す。
この50年間を3期に分けて分析する。

①第1期(1972年から30年間)のTFR低下の原因は、
若い女性が自ら望んだ未婚化
(結婚先送り=晩婚化)である。
TFRは(2.14-1.32=0.82)低下した
ア、高度経済成長からバブル経済期にかけて、世間では三高(高収入、高学歴、高身長)など上昇婚が喧伝され、
若い女性は、それまでの結婚適齢期(20代前半)に至っても、家庭に入ることを回避するようになった。
高学歴化も進み、仕事に興味を持つ人が増加して、「キャリア・ウーマン」の道を選択する人も現れた。
イ、1972年の既婚者率は97.3%とほぼ100%である。1972年以前の日本社会は長い間「皆婚社会」であった。
ウ、既婚者数比率(棒グラフ)が、TFR低下と同様の傾向であることを確認できる。
エ、完結出生児数は、平均2.21 と「人口置換水準」を上回り、変動幅も±2%以内で安定していた。
②第2期(2003年から12年間)に、未婚率が回復した。しかし夫婦出生力の低下
(2.23-1.94=0.29)によって、
TFRの回復力は弱かった。
ア、21世紀に入って、上昇婚志向も
3平(平均的年収・平凡な外見・平穏な性格)や
4低(低姿勢・低依存・低リスク・低燃費)等の
共働き前提の結婚観に変化した。
イ、夫婦出生力が「2002年の2.23が続いたと仮定した場合」の回復状況を図表4に示す。
ウ、30年間で1.32まで低下したTFRは、夫婦出生力の低下が無ければ1.67まで回復したことを示している。

③第3期(2016年から5年間)は、2002年から続く完結出生児数(夫婦出生力)の低下と生涯未婚率の上昇が重なり、2021年以後も今日までTFRが低下し続けている。
(3)夫婦出生力低下の要因。
①夫婦出生力低下の要因は、1人子世帯増と多人子世帯減の同時進行である。


ア、図表5右は、未婚者40.8%、既婚者59.2%であることを示している、この59.2%を100%として出生児数の比率を示したのが左円グラフである。
イ、1人子(イチニン子)世帯は、2002年の8.9%が2015年には18.5%(2倍)、多人子世帯は2002年の34.4%が2015年には21.2%(0.6倍)になっている。(2人子世帯の変化率は低い)
ウ、1人子と多人子の推移を、図表7に示す。
多人子減少と1人子増加が、2002年を過ぎてから、同時進行している様子が一目瞭然である。

②未婚者減少によるTFR改善を、1人子増加が打ち消している。
これを示す合成図・図表8を以下に示す。

ア、このグラフは、「未婚率」 と「1人子世帯率」 を一覧できるように、
図表2の、「0人の比率を未婚者数比率に置き換えて」合成したグラフである。
イ、1977年の数値を1として、時系列の変化を、折れ線グラフで表現している。
ウ、2002年を過ぎてからの 赤い1人子の 線 は、青い0人子(未婚者)の低下と対応するように、上昇カーブを描いている。
未婚率低下によるTFR改善を、1人子の増加が打ち消していることが読み取れる。
エ、青い点線は、未婚率回復の「期待値=仮説」を示す線である。
未婚率は1977年の1.0が、2002年の2.3をピークとしてその後低下し始め、
2015年まで13年間は仮説の通り低下してきた。
(4)低下しつつあった未婚率が再上昇に転じたのは生涯未婚率の上昇による。
図表9に、生涯未婚率(現在は50歳未婚率) を示す。
①生涯未婚率上昇の原因
生涯未婚率上昇の原因は、経済成長率の低迷である。
詳細は研究論文「未婚化を推し進めてきた2つの力」(明治大学 加藤彰彦教授 当時)による。
②論文要旨(文責筆者)
ア、経済成長(図表10参照)には、結婚のチャンスに格差を生じさせる「社会階層 の力を緩和する効果 」がある。
1970年代半ば以降、経済成長の低下にともない、この緩和効果が衰えたことが、潜在化していた階層本来の力を呼び覚まして、男性の未婚化を進展させた。 相対的に低階層(非正規社員、フリーター)の男性が増加すると、結婚可能な男性の人口規模が縮小する。そのため女性の側では、結婚相手の供給不足が生じて(望まない)晩婚・非婚が進展した。
イ、未婚化のもう1つの主因は、個人主義イデオロギーの普及による共同体的結婚システムの弱体化である。
親族・地域社会・会社などの身近な共同体が行う配偶者選択の支援には、結婚の確率を高める強力な効果がある。
しかし、高度成長期に導入された近代核家族(恋愛結婚と夫婦家族)のイデオロギーは、バブル経済崩壊後の1990年代に、よりラディカルな自己選択・自己決定・自己責任のイデオロギーとして喧伝され、共同体的結婚システムを否定した。
とくに、経済力のある男性の供給不足に直面した女性にとって、共同体的結婚システムの衰退は相手探しの困難がさらに増加することを意味する。女性の未婚化が1990年代に一挙に進んだのはそのためである 。

③経済成長率に関する解説
・図表10は、前年比実質国内総生産の7年移動平均である。「独立行政法人労働政策研究・研修機構(JILPT)」の「実質GDP、為替レート」のデータを、加藤彰彦 氏の論文の条件に従って加工した。
ア、1960ー70年代は、前年比≒10%の高度経済成長の時代であった。
イ、1980ー90年代は、後年バブル期・バブル崩壊期と呼ばれた、経済過渡期であった。
ウ、21世紀以降は、今日まで続く「低成長」の時代であった。
エ、以上のように、20世紀末期の高成長時代から21世紀初期の長期・低成長時代の様子が一目瞭然である。
④以下に((JILPT)の、各種経済指標を示す。全て図表で見易い資料である(数値データもダウンロードできる)。
3.少子化進行の要因 まとめ
(1)社人研のデータに基づく分析結果
※少子化は(TFR:出生率)下降し続けている
1972年 ⇒2025年
2.14 1.15
要因①:生涯未婚率が上昇し続けている(女性
1972年 ⇒ 2021年
3.4% 19.9%
要因②:子なし夫婦は近年上昇傾向
1972年 ⇒ 2021年
3.0% 7.7%
要因③:完結出生児数は21世紀に入ってから低下傾向(1人子増加&多人子減少)
1972年⇒2002年 ⇒ 2021年
2.19 2.23 1.90
(2)社人研データ以外の要因
①人口減少に対する危機感の遅延・欠如。
②政府の活動は、予算も増額し、個別の施策は充実しつつあるが、出生数減少ストップ効果の低い施策である。
(3)特記事項
①21世紀に入って「共働き・共育て」世帯が急伸しているが、
現在のシステムは「1960~70年代の皆婚・専業主婦」の時代に適応したシステムのまま代わっていない。
②21世紀システムに改革を要することの具体例
ア、「年金:第3号被保険者制度」
イ、「扶養者控除制度」(103万・130万円の壁)
ウ、企業における、専業主婦の存在を前提とした「長時間勤務」、「家族手当」等のシステム
エ、「出産・育児」の折、正規雇用から非正規雇用になってしまう、 L字カーブの存在。
③専業主婦、兼業主婦の移り変わり
ア、1960~70年代は、歴史上まれな 夫:雇用者・妻:専業主婦が主流であった。
イ、1950年代以前は、農・漁業や商店・飲食店等自営業が多数であった。妻はもちろん子も働く時代であった。
ウ、現代の「共働き・共育て」とは全く違う形態であり、昔に戻ることはあり得ない。
④21世紀「共働き・共育て」システムへの改造が不可欠である。
図表11に、各種世帯のシェア推移、図表12に、専業主婦世帯と共働き世帯の推移を示す。


